キリン舎と申します。
主に樹脂粘土を使ってキーキャップを自作・販売しています。
ここではキーキャップの自作を始めた経緯と動機を主に書いていきます。
他の記事の補助線としてお読みください。
時間がない方向けに3行で
<はじめに>
自己紹介
■名前:キリン舎
■年齢:30代
■職業:not 技術系・エンジニア系
キリン舎の特徴
キリン舎で制作・販売したキーキャップをはじめとするキーボード関連アクセサリは以下の通りです。(2023年8月時点)
■キーキャップ :49種
■デスクマット :15種(マウスパッド含む)
■その他アクセサリ:9種
これらのほとんどは現在もInStock(在庫)で販売しています。
これ、実はちょっと珍しいです。(最近はそうでもないかも。)
自作キーキャップはアルチザン(Artisan / 職人)キーキャップとも呼ばれます。その性格上、一点ものであることが多く、期間限定販売やグループバイ(共同購入 / 受注生産)がほとんどです。
自作キーボードへハマる前に販売開始→終了していたものも多く、再販もなく悔しい思いをしたことが何度もありました。アフターマーケットやフリマサイトでは高値で取引されていて、手が届きません。仕方ないこととは理解していましたが、やっぱり悔しいし、悲しい。
そこで、キリン舎では在庫販売「し続けられる」よう、量産できるフォーマットを考えるところからスタートしました。一点当たりの希少価値は下がりますが「様々な人の手に渡ること」、特に「新規参入した人も簡単に手に取れること」を重視しました。そのため、販売価格もそこそこ低めに設定しています。これは材料を安いものに……ではなく、一度にたくさん作ることで一個当たりの作業時間を短くすることで実現しています。生産性 is パワー。その分、制作に時間がかかるレジン製品は少し高く設定しています。
この方法で、キリン舎では2021年10月のショップ開設から10ヶ月ほどで約140点の作品を販売しました。(セール・アウトレット商品は除く。)
大半は材料費や試作費で消えていきますが、それでも自キ活を継続できているのは購入してくださっているみなさんのおかげです。本当にありがとうございます。
<背景>
自作キーボード沼への参入
私が自作キーボードの世界に飛び込んだのは、HHKBを愛用していて打鍵感や打鍵音に興味を持ったのがきっかけです。キーマップの変更やマクロの設定が可能なのは自作キーボードの大きな特徴の一つですが、私の場合それほど機能面に魅力を感じたわけではありません。
あくまでも感触や音、バックライト・アンダーグローの光といった、楽器やホビーとしての面に惹かれたのだと思います。職場に持っていけるおもちゃ。誰でも演奏できるカスタム可能な楽器として。
最初に購入したのはBM60RGB ISOでした。次にTokyo60。
キースイッチはInput Club Hako VioletとKailh Box Redの2種類を使いました。
参考にしたのは、サリチル酸⌨️自キ温泉ガイド (@Salicylic_acid3) / Twitterさんの記事です。
■メカニカルキースイッチの好みの話 - 自作キーボード温泉街の歩き方
■メカニカルキースイッチの好みの話 その2 - 自作キーボード温泉街の歩き方
この時点ではリニアとタクタイルの違いが正直よくわからなかったのですが、クリアなキースイッチが欲しくて漁ったフリマサイトでAqua kingに出会い、こんなにも違うのか! と感動しました。
Aqua King Switches V3 37/55/62/67g(5個)shop.dailycraft.jp*1
そこからずぶずぶとキースイッチ、ケース、配列……とこだわりはじめ、今ではそこそこたくさんのキーボードとマクロパッドを日によって使い分けて楽しんでいます。
【随時更新】触ってみた「キースイッチ」の雑感 - キリン舎@文筆分店
【随時更新】触ってみた「キーボード」の雑感 - キリン舎@文筆分店
<動機>
自作キーキャップの販売
キースイッチの単価はおおよそ40円~200円程度ですが、キーボードひとつ分となると結構な額になります。例えばスタンダードな60%キーボード(DZ60 RGB V2 – 遊舎工房ショップ / 英語配列)でも63キーが必要です。
ほかに、本体であるPCB(基盤)やケース、スイッチを固定するプレート……など一式をそろえると、私のひと月のおこづかいなんて簡単に消し飛んでしまいます。
だましだましやりくりしていましたが、自作キーボードはナマモノ。売り切れてしまったら、再販されるかどうかは微妙なところです。欲しいときに買えるだけの――もちろん全部買っていたら破産なのでギリギリまで悩みますが――現金もしくは、収入の見込みが必要でした。
そこで始めたのが「自作キーキャップの販売」でした。
身もふたもない言い方をするならば、私の動機は、キーボードで「遊ぶ金欲しさ」です。
<経緯>
自作キーキャップ制作
序:#KEEB_PDでの出会い
日本国内の自作キーボード界隈では、#KEEB_PDというTwitter上のフォトコンテストが盛んです。
このコンテストは毎週日曜日の19:00-21:00に開催されていて、時間中のリツイートやファボの数で競います*2。(景品は名誉です。)
キーボード自体の美しさ、写真の技術ももちろんなのですが、私が気になったのはいくつものキーボードに並ぶ美しいキーキャップでした。どれも非常に細かい細工が凝らしてあり、ビジュアルや感触・音――総じてデザイン面に惹かれて界隈に飛び込んだ私には、とても興味深いものでした。
特にnoix (@noixresin) / Twitterさんのキーキャップを見た時の衝撃はすごかった……好みにドンピシャでした。(もちろん今も。)
「こんな作品を作ってみたい」
販売に踏み切った動機は先に述べたとおりですが、制作を始めたのは確かにそんな気持ちからでした。
まずは情報収集から始めました。自作キーボードはその性質からソフトウェア系の方の利用・頒布が多い印象です。そのため知見は公開されていることが多く、自作キーキャップでもそうではないかと考えました。調べると実際その通りでしたし、現在もそのすそ野は広がり続けています。オープンソース万歳。
私が主に参考にしたのはたねやつ@キーキャップ作る人 (@taneyats) / Twitterさんのブログです。
今から始めるのであれば、いとうひよこ🦋自作キーキャップ (@tsubuan_145) / Twitterさんのnoteにも目を通すと思います。
失敗したことも赤裸々に書いてくださっているので、非常にためになります。ビルドログもたくさん書かれていて、いろいろなキーボードが見られて楽しいです。
このようにして、先人の力を借りまくって作成したのが、このキーキャップです。
……はい。noix (@noixresin) / Twitterさんのキーキャップのもろパクリです。
試作品としては問題なくとも、販売までしたのは間違いだったなと今では大変反省しています。(現在は商品ページから削除しています。)
ただ、兎にも角にもレジン製のキーキャップを完成させることができました。
その後は手を慣らし、より丁寧に制作できるよう、公開はしていませんが様々なキーキャップの制作に励みます。しかし、ここで大きな問題にぶち当たります。
破:レジン製のアルチザンキーキャップはレッドオーシャン
これは単に数だけでなく、高品質かつ精細なものが多いということです。
そんな中でそこそこうまく作れたくらいのキーキャップが売れるでしょうか。
チャレンジする価値はあります。だいたいのことは試行回数で差を埋められるので。
作って、売る。そのサイクルさえ継続できればなんとかなります。
ただ、キリン舎では他のやり方を模索することにしました。
子育て中で、試行回数を稼げるだけの時間の余裕がそれほどなかったためです。
試したのは以下のとおりです。
■石粉粘土
■アルミタイル
■布
■フェルト
■樹脂粘土
■マスキングテープ(デコパージュ)
……etc
いろいろと試しましたが、強度やほどよい柔性という点でハンドメイドではレジン以上の素材はなかなか見つかりません。特に問題なのは、十字の軸受部です。石粉粘土では固すぎて、キースイッチへ抜き差しを繰り返すと徐々に削れてゆるくなってしまいましたし、樹脂粘土では(技量もあるでしょうが)うまく型取りができませんでした。
「やはりレジンを極めるしかないか」と腹を決めようとしていた時、TALPKEYBOARD - 自作キーボードとパーツのショップ -さんで扱っているRelegendableキーキャップに出会いました。
これが大きな転機になりました。
急:モチーフは載せるだけ
Relegendableキーキャップの仕組みはPOSレジと同じです。クリアパーツと土台部分の隙間に印字した紙をはさんで使います。
アルチザンキーキャップの素材としてちょうどよかったのは、この土台部分がDSAプロファイル等の通常のキーキャップに比べ一回り小さい点です。土台の上にどんな工作をするにせよ、隣接するキーキャップに接触しないよう小さいほうが都合が良いわけです。
ところで私は動物が好きです。動物園も水族館も毎年、年パスを発行するくらい通います。
そしてショップ名もキリン舎なので*3動物をモチーフにキーキャップを作ろうと思いました。
加えて、たまたまTwitterで流れてきたジオラマ制作の記事で、タミヤ情景テクスチャシリーズという塗料があることを知りました。
試しにいくつか購入してみると、どれも素晴らしい質感でした。時節はそろそろ冬の訪れを感じる頃になっていたので、「雪」を使おうと決めました。
雪が似合う動物はなんだろう?
そうして完成したのが、シロクマキーキャップです。
今でもふらっと売れていく、長く愛される作品になりました。
そしてこのフォーマットができたことで。
制作だけでなく、新作を増やすコスト(時間)も大きく減らすことができました。
そこからは手を変え品を変え、モチーフや塗料を変え、時々は別のアイテムに浮気をしながらも、コンスタントにバリエーションを増やしていき――現在に至ります。
<まとめ>
お読みいただきありがとうございました。自分語りは楽しいですね。セルフ自伝。
今後の展望
先に述べた通り、現在ではキーキャップのほか、デスクマットやマスキングテープ等のキーボード関連アクセサリの制作・販売も行っています。保管するスペースの都合上、受注生産としているものもありますが、基本的には継続販売を行っています。
自作ではありませんが、縁あってサリチル酸さんの日本語配列対応キーキャップセットAcidCapsのデザインにも協力させていただいています。
salicylic-acid3.hatenablog.com
また、♯アクリルリストレスト ♯ビーズエンターキー などの「かんたん〇〇の作り方」シリーズの公開も始めました。販売するより公開して共有したほうが楽しそうなものは、今後も積極的に公開していくつもりです。応援よろしくお願いします。
とはいえ無銭ではモチベーションが続くかわかりませんので、Boothの関連ページに投げ銭枠も用意しています。ブログの記事を読んで「ためになった」「応援してるよ!」という方や大富豪石油王様からの投げ銭やBOOSTも絶賛お待ちしております。ご購入いただいたお金はキーキャップ・デスクマット等の試作費や材料費のほか、私の新しいキーボード代になります。けいざいまわすぞ(ぐるぐる)。
それではまた別の記事で!
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